悠理は部屋に戻るなり、ベッドに倒れこんだ。
目を閉じ、シーツに頬を摺り寄せる。
やがて身体は小さく丸くなった。

「はぁ、疲れた・・・」
人を好きになる事が、こんなにも疲れるものだとは思っていなかった。
悠理は、ポケットから指輪を取り出すと、顔の前に持ってきた。
鈍く光る、オモチャの指輪。
けれどそれが今の悠理にとって、たった一つの心の支えでもあった。
友人達が、野梨子でさえも、自分を心配してくれているのは痛いほどわかっていた。
だが悠理には現状が精一杯だった。
清四郎を避ける態度が不自然な事も気付いている。
清四郎もわかっているのか、特に何も言ってはこない。
だが、視線を感じるのだ。
責めるわけでもなく咎めるわけでもない、その視線が悠理には辛かった。

悠理とて、清四郎と話をしたかった。
話題なんて何でもいい。ただ、今までのように話が出来ればそれで良かった。
しかしそうすれば、またじゃれてしまう。
野梨子と清四郎の二人が一緒にいる事を望みながらもそんな姿を見るだけで切なく哀しくなる自分には、彼女の気持ちを考えると、それは出来なかった。
「あたい、すごい嘘つきだ・・・」
野梨子を哀しませたくないから、なんかではない。野梨子が哀しむ事によって清四郎が彼女の元に行ってしまう事が嫌なのだ。

色んな想いが交錯する。
清四郎と一緒にいたい。
野梨子の気持ちが痛いほどわかる。
野梨子に清四郎を取られたくない。
野梨子を悲しませたくない。
――――苦しい。


何をすれば、どうすればいいのかわからなかった。
だから、毎日皆から逃げた。
逃げながら清四郎の傍にいた。
会いたかった。

「ヤダなぁ。あたい女の子みたいじゃん」
急激に押し寄せてきた、自らの気持ちの変化についていけていない。
たまらなく清四郎に会いたかった。
時間が戻ればいいとさえ思った。
あの暖かな日、野梨子に会う前に。

手の中に在る指輪は、今の悠理にはとても小さかった。
壁紙:ひまわりの小部屋