「まどろみ」
抱きしめられ、その腕と胸の温もりにまどろんでいた悠理は、背中に回されたその大きな手が腕を這い上がってくる感触に身じろいだ。
「せいしろ?」
遂には体を離され、触れていたところが急にひやりとした。
「寒いよ」
だがその言葉に清四郎が、クスリと笑ったのが暗闇でもわかった。
「悠理の部屋に行こう」
「なんで・・・」
悠理はこのままずっとこうしていたかった。
腕も胸板も温かい。
「そんな顔するな」
顔に手を当てられ、瞼や頬を撫でられる。
もう一度引き寄せられると、耳元で囁かれた。
「せめて、ちゃんとパジャマを着てて欲しいんですよ。そうじゃないと、僕にだって限界がありますから」

―――抱くつもりはない。
だが、身体と頭は思うように連動してくれないものだ。
清四郎は、素肌に触れる悠理の体温を感じ、安心感と愛しさと、彼女の「女」を感じてしまった。
「僕もずっと一緒にいたいんだ」
だから、その為に。


悠理の部屋に移動したふたりは、ベッドには入らずそこから引っ張ってきたシーツにソファの上で包まっていた。
お互いちゃんとパジャマを着直したとは言え、やはり「ベッド」というのがそれなりの意味を持っている事に変わりない。
かと言って離れがたい想いは更に強くなる一方で。
悠理がパジャマに着替えたあと、少し考えて清四郎はこの体勢を選んだ。

「なぁ、あたい変だよな?こんなのあたいじゃないよな」
腕の中でやはりまどろんでいた悠理が、身を摺り寄せ訊いてきた。
「何が悠理じゃないんです?」
「こんな風なのがだよ。あたいのキャラじゃないだろ。可憐とか野梨子とか・・・あんな女らしいっていうか、さ。二人みたいだったなら・・・」
あれだけ大胆な行動にでたにも拘らず、今の状況にどうやら照れているらしい。
頬に触れると、そこはかなりの熱を孕んでいた。
「悠理は悠理ですよ」
きっと本人は気付いていないだろうが、清四郎は今まで悠理の可愛さも女らしさも全てを見てきた。そしてその全てをひっくるめて愛しく思っているのだ。
だがこんな状況でもそれを口に出せるほど素直じゃない自分が情けなくもあり"らしい"とも思い苦笑してしまう。
「今はさ、恥ずかしいとか、照れくさいとか、そういうの、いらないんだ。恥ずかしいけど、それよりもっとこうしていたいって思う。あたい我侭だ。ただ嫌われたくなかっただけなのに、今はもっと一緒にいたいなんて」
その言葉が素直すぎて、清四郎の胸が苦しくなる。
悠理を力いっぱい抱きしめ、硬く眼を閉じた。
「そんな我侭だったらこれからいくらでも聞きますよ。素直な悠理も好きですから」
「じゃぁ、ずっとこうしてろよ」
「あぁ」

それから僅かの間に、悠理は眠りに堕ちていった。
微笑んだままの寝顔に口付けると、抱き上げベッドに横たえる。
そして暫くその寝顔を見つめていた清四郎は、静かに部屋をあとにした。
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