「オレンジ」
視界が開け、ぼんやりとした頭で回りを確認した。
右手に暖かい感触。
頬にも暖かく、そして柔らかい感触・・・。
「よく眠ってたな」
心地よい声が頭上から降りてくる。
「!」
身体を起こすと、悠理が可笑しそうに笑っていた。
漸く自分の状況を思い出して、慌てて時計を見る。
「うわっ!悠理、スイマセン!!」

悠理の膝に横になった時にはまだ陽はかなり高かった。
だが、今は空がうっすらとオレンジに色づき始めている。
「お前、よっぽど眠かったんだな。あたいが何しても全然起きなかったぞ」
悠理は半ば呆れながら、それでもやっぱり可笑しそうに清四郎の顔を見た。
清四郎は自分でも本気で眠り込んでしまったことに呆れていたのだが、あまりに悠理が可笑しそうに笑うので、自然に笑みが浮かんだ。
「それより悠理、身体大丈夫ですか?ホントにスイマセンでしたね。足痺れてるでしょ」
この数時間を同じ姿勢で、しかも右手を拘束したままではかなり辛かったはずである。
それでも何ともないというように首を振る悠理。
「別に全然大丈夫だぞ。それにお前の寝顔見てるの結構楽しかったし」
何かを思い出したように笑う悠理に、清四郎の頬に赤味が差した。
「そう言えばさっき変なこと言ってましたね。寝てる僕に何してたんですか」
無防備な寝顔を晒したことが今になって照れくさくなり、いつものように詰め寄った。
だが、口を開きかけた悠理から出てきたのは言葉ではなく、くしゃみだった。
「はっくっしょい!!」
「大丈夫ですか?」
鼻をすする悠理の顔を覗き込む。
「うん、大丈夫・・」
「そんなカッコしたままずっとじっとしてたから身体、冷えてるんじゃないんですか?」
薄着の悠理は予定通り何処かに遊びに行って動き回っていればそれでも十分だったかもしれないが、膝枕をしたがために、何もせず木陰でじっとしていたのだ。
春とはいえ、まだ日中以外は空気も冷える。
清四郎は、「ともかく何処か暖かいところへ行こう」と言った。
だが、そうやって心配する清四郎に悠理がなにか思いついたように笑った。
「何処も行かなくてイイからコートして」
「こ、ここでですか?」
周りには人がいないわけではない。
一度、自分達を知る人間に見られて妙な噂を立てられてからというもの、今までコートをするときは人目のないところを選んでいた。
「なぁ、せーしろぉ」
それでも上目遣いに見られては断る事など出来ない。
しかも、今回ばかりは自分の所為で悠理の身体を冷やしてしまったのだから。
(まぁ、こんなところに知り合いなんていないでしょうしね。いたとしても膝枕を見られてたんじゃ、今更ってとこか)
しかも前回噂を立てられたときとは悠理に対する気持ちが全然違う。
今では悠理への想いが日に日に溢れているのを自分でも驚くほど素直に受け入れ、悪くないと感じている。
清四郎はふと笑うと、座りなおした。
「わかりましたよ」
悠理は嬉しそうな顔をして、その脚の間に入りこんだ。
抱きしめた悠理の肩はやはり冷たい。
悠理が嬉しそうに振り向いた。
「やっぱり、お前の腕ん中暖かい」
清四郎はただ笑みを返すと、少し抱く腕に力を込めた。
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